広報ひゅうが平成23(2011)年10月号

「櫛の山」の口頭伝承


塩見大橋から「櫛の山」を望む


 日向には神武天皇のお船出にちなむ神話伝説や金ヶ浜の百済王族の漂着と上陸の話、それに平家の落人を追って鎌倉から下ってきた那須大八郎と工藤祐経に関する話(富高八幡宮由来)など、たくさんの民話や昔話が語り伝えられています。
 また江戸時代末期の「日向国御領発端其外旧記」という記録には、高千穂に天降した神たちが土々呂(延岡市)の浜を通って「日知屋の櫛の山」に来て、「諸方」、つまり四方八方を眺めた・・・という伝説が載せられています。
 この話は「古事記」などの神話記録には書かれていませんので本当だとすると大変なことですが、どうも怪しい話だと見ておいた方が無難なようです。
 ただ当時の人たちが櫛の山を何か特別な山と考えていたことだけはまちがいないでしょう。
 こうした古くから伝わる伝説や昔話、それに諺などのように家庭や地域の中で語り継がれてきた話のことを民俗学では口頭伝承という難しい名で言います。文字や文章の記録に頼らず記憶力だけを頼りに人から人へと言葉を通して伝えられてきた話のことをそう呼んでいて、文化財の分野では無形民俗文化財の中に含めています。
 無形民俗文化財は、しっかりした形を持っていないため不安定な状態にあり、せっかく今まで伝わってきた話も伝承者がいなければ消え失せてしまう運命にあります。
 このため口頭伝承の保存はもちろんのこと、調査や記録をとるのにも相当の努力が必要ですが、核家族にも代表される世代間のギャップが広がる一方の今日にあっては、なんらかの保存の手だてが必要です。

日向市文化財でも紹介しています。ご覧ください。

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