広報ひゅうが平成21(2009)年8月号

栗尾神社に残る「絵馬」*


塩見地区中村の栗尾神社


 塩見地区中村にある栗尾神社の拝殿には、古い絵馬が残っています。
 この絵馬は、「歌仙絵馬」と呼ばれるもので、今では28枚しか残っていませんが、もともとは、小野小町や紀貫之に代表される30人の有名な歌人(歌仙)たちを、それぞれ一枚の板に描いた「三十六歌仙絵馬」だったようです。
 28枚の絵馬は、普通の画用紙程度の大きさの板に墨で下絵を描き、その上に天然鉱物から精製した岩絵具で、背景や顔、それに衣服の部分に色をつけたものです。板の中央には、歌仙の姿が描かれ、その右側に人物の名前、左側には墨で歌が書かれています。
 また、板の額縁が竹の釘で打ちつけてあることも見逃せません。ただ、岩絵具を使っていることから湿気に弱く、保存状態もあまり良好とはいえません。
 人物名や歌の書体は江戸時代ごろのもので、歌仙の絵にも江戸時代に流行した狩野派の影響が感じられます。
 おそらくこれらの絵馬は、専門の絵師が描いた江戸時代の作品と見てまちがいないでしょう。
 もともと絵馬は、庶民の願いや感謝の印として、神社や寺院に奉納されるもので、当時の社会や文化、信仰などを探るための貴重な資料になります。
 それでは栗尾神社の歌仙絵馬は、その当時だれがどんな理由で奉納したのでしょうか?
 それを明らかにすることは、なかなか難しいのですが、江戸時代の日向には、俳句や和歌をたしなむ人が多かったといわれています。
 歴史上の有名な歌仙にあやかって、歌の道を究めたいとか、出世したいと願う人びとの思いが、一つひとつの絵馬に秘められているようです。

目次へ戻る