広報ひゅうが平成21(2009)年5月号
十三日講の郷、蕨野

十三日講の郷「蕨野の集落」
東郷町田野区藤野に安置される「虚空蔵(こくうぞう)菩薩」。虚空蔵菩薩は、五智宝冠を頂いて、右手に智恵の宝剣を、左手に福徳の如意宝珠(にょいほうじゅ)を持っていて、広大な宇宙のような無限の智恵と慈悲を備えた菩薩とされています。
お堂のそばにある同地区の屋根付運動広場付近一帯は、以前はこんもりとした山があり、庵寺が結ばれていたともいわれていて、付近では今でも石塔を見ることができます。
過去に東郷町文化協会史談会が行った調査で次のような伝承が記録されています。「むかし、田野の集落に疫病が流行、折悪しく火災までもが起こり、村人たちは非常に苦しい生活を余儀なくされたことがある。ある夜、庄屋の枕元に虚空蔵菩薩が立ち『村を助けてやる』とのお告げがあった。それから村は言葉どおりに豊かになったとのこと。そのお告げの夜が十三日だったので、村人は感謝の念を込めて講を行うようになり、今に伝わっている。毎月十三日の夜は講に入っている人が御初穂として米を少しずつ持ち寄り、虚空蔵菩薩像に供えている。この十三日講を続けることで防火の功徳があるといい、田野の集落では火事は起きないといい伝えられている」。蕨野の伝承では、虚空蔵菩薩像は疫病の平癒を願って文久元(1861)年に寄進されたとされています。今でも蕨野の人たちによって、毎年9月に十三日講は行われていますが、握り飯を供える習わしであることから飯講とも呼ばれているようです。お堂に安置された菩薩像は、右手の宝剣は失われていますが、御尊顔もきれいに修復され、掃除などもいき届いていて、地域の人たちからとても大切にされているのがわかります。
ものいわぬ路傍の仏像や石塔も、その一つひとつに、いわれ、願い、風習があり、興味は尽きないものです。